『狼に育てられた子』-アマラとカマラの養育日記ー

1920年ごろ、インドのミドナプールに
アマラとカマラという狼っ子がいました。

彼女らは人間の子どもなのですが、
ふたりとも何らかの事情で、
生後まもなくから数年間、
野生の狼(オオカミ)家族に育てられました。

細かな話は省略しますが、記録によると

ジャングルで牧師(シング氏)に保護されたとき
アマラは1歳半、カマラは8歳(推定年齢)
でしたが、ふたりとも4本の手足で移動し、
生肉などを主食にするような、まるっきり
狼と同じ習性をもつ動物だったそうです。

そして人間の子どもたちと(牧師の営む)孤児院で
暮らすようになりますが、
最初に人間に親しむような態度を取り始めたのは
年少のアマラだったそうです。

やはり幼少で保護された彼女のほうが、
人間の心を獲得しやすかったのかも知れません。

しかし残念ながら、アマラは1年足らずの
(推定)2歳半で、病死してしまいます。


さて、残された年長のカマラですが、
やはり8歳近くまで狼と野生の暮らしをしてきた
せいでしょうか、なかなか人間に戻ることが
できません。

怒りを態度に表わすときには野生の凶暴さ
そのものですが、顔に表情はなく、喜怒哀楽
という感情表現がまるで無い彼女でした。

(それでもアマラの死で、2筋の涙と、落ち込む
という感情表現はみられたそうです)

人間の食事に慣れた頃から、食べ物や、
それを与えてくれる人に対して「好き」という
感情が芽生え始めたようですが、まだ野生的な
部分が抜けず、庭で鳥などの死骸を見つけては
食べていたそうです。


そんなカマラの心が大きく変化し始めたのは、
言葉の理解と、言葉らしい発声が始まった頃から
だと記録されています。

つまり相手の言葉を理解しようという努力と、
自分の意思を何とか言葉で伝えようとする
そうした態度がみられるようになってから、
彼女の『人間らしさ』は急速に早まったそうです。

それまで、あまり関心を示さなかった
周囲の子どもたちとの関係も、
ブランコの順番を待ったり、子どものケガを
『ママ』(牧師の夫人)に知らせに行ったり、
と、かなり良好なものになりました。

そしてそれまで裸同然だった生活も
自分からすすんで服を着るようになり、初めは
拒んでいた入浴も自分からするようになり、
人間的な生活を楽しんでいると思われる様子が
多く見られるようになったそうです。


話が長くなりましたが、
この実話が何を意味するか、と云いますと、
やはり人間の心の成長は『言葉の獲得』を
抜きにしては考えづらい、ということです。

人間の無意識は、他の動物と同じ原始的で、
その後の成長も皆無(まったく無い)ですが、
自我が言葉を覚えることで、
思考活動が活発となり、心も成長する
と考えられるわけです。


※ちなみにカマラは、孤児院で9年間を過ごし、
(推定)17歳で残念ながら病死してしまいます。

最後の数年間の彼女は、
精神年齢は3~4歳ほどで、覚えた言葉は
(短い単語ばかりでしたが)30語ほど。
人間の子どものように手を使い食事をし、
2本の足で歩くまでになったそうです。


参考図書

『狼に育てられた子』
-アマラとカマラの養育日記ー
J.A.L シング著 福村出版

言葉と心の発達

このページは『無意識を知ろう♪極楽とんぼの精
神分析学入門』をスマートフォン対応に再編集し
たものです。※文章はスマートフォン向けに編集
してある為、パソコン画面では読みづらい部分が
あるかもしれません。また画像を多用しておりま
すが、サイズがスマートフォン画面では見づらい
場合があるかもしれません。ご了承ください。


 
カウンセリングルーム アクト