さて、それではフロイドの産み出した精神分析
という治療法は、どのような治療だったのでし
ょうか?それについて簡単に書いておきたいと
思います。
自分の中に、自分ではまったく意識できない
心の領域が存在する。
この事が分かっても、では自分でも意識できない
無意識と云うものを、どうしたら表面化(意識化)
させることができるか。
試行錯誤の結果、フロイドは自由連想法を考え
出します。患者自身から浮かんだ言葉(気持ち)
から、次の言葉(気持ち)を繋いでもらうという
技法です。
※しかし自由連想法の創始者は
フロイド一人ではなかった・・・続きを読む
まず治療者は患者に、心に浮かんだことは、
たとえ「つまらないこと」「関係のないこと」
「意味の無いこと」と思っても、どんなこと
でも隠さず話すように・・・・と告げます。
そして患者を寝椅子と呼ばれるソファに寝かせ、
治療者はその枕元にイスを置いて座り、余計な言葉
をはさまず、ひたすら患者のつぶやき(連想)に
耳を傾けます。
つまり、リラックスした状態で
「何でも話していいのですよ」と告げられること
で、患者は心の壁を取り除き、心の奥底(無意識)
にある、あらゆる感情を吐き出すことが可能に
なります。
そしてその吐き出すことで、もっとも重要なこと
は、神経症の原因になっている『悪いもの』を
吐き出してもらうこと。
つまり、病巣になっているおできの中の膿(うみ)
を無意識から意識へ表面化させることによって、
神経症を完治させられるという理屈が、フロイド
の精神分析(自由連想法)の考え方です。
ただしフロイドは『悪いもの(膿)』を排除する
だけでは、仮に一時的には良くなっても「本当
の完治にはならない」と考えていたようです。
つまり、膿の根源になっている悪い部分(病巣)
も、良い部分と同じ、その人の一部分に変わりは
ないのだから、その病巣部分が良いものに転化
できるまで治療を続けなければ、再びいつか発症
するであろうし、患者のその後の人生にプラス
(より良いもの)になるようなければ(精神療法と
しての)意味がないと云うわけなのです。
たしかに、
「症状が取れました。治療は見事に成功です」
チャンチャンと終わってしまっても、
「それだけでいいのか?」
という疑問が残りますよね。
症状がなぜ起きたのか? それをしっかり突き
詰めて、
「むしろ(発症以前より)生きやすくなりました」
というところまで、患者さんを導いてあげなけ
れば、完全に(治療が)終わったとは云えないの
かも知れません。
このへんが、ふつうの外科(の摘出)手術と違う
ところで、心の障害の難しさ、精神療法の奥深さ
と云えそうですね。
しかし云うのは簡単ですが、『悪いもの』に限ら
ず『無意識にあるもの』は、そう簡単には出てき
てはくれません。
そして一旦、悪い膿が出始めると、今度は『悪い
もの』の中にある不安や恐怖などの感情が噴き出
し、患者は(症状と同じような)とても苦しい状態
に置かれることになりす。
つまり、治療でわざと症状を引き起こさせるわけ
ですから患者もたまったものではありません。
(^^:
ですが、これも治療の一環、一度は通らなければ
ならない過程です。どんな病気や怪我でも、やは
り病巣である膿を見つけ出し、メス(刃物)を入れ
なければ、いつまでもジクジクと痛み、治すこと
ができないのと同じように、無意識の中に『悪い
もの』があり続ける限り神経症は治らない・・・
しかし、心にメスを入れることはできないので、
治療者が手伝いながら患者みずから膿み出し、
さらに病巣をプラス(良いものに)転化してもら
おうと云うのが自由連想法であり、精神分析です。
そして、ここに面白い話があります。
私たちは夢をみても、目が覚めるとその(夢の)
内容を忘れてしまうことが多いですよね。
フロイドはそれを、
「私たち自身が、夢を思い出すことを
望んでいないからだ」
と云うような表現で説明しています。
夢はたしかに、無意識の中にある私たちの願望
の表れ(成就した姿)ではあるのですが、 私たち
はそれを意識(現実)で感じたくないのです。
つまり夢の中だけで納まっていてくれないと、
不要な混乱や葛藤を招くだけなので意識化される
ことが大変に嫌なわけです。(^^:
だから、わざわざ夢で無意識の願望を叶えてあげ
ているのだから、「もうそれ以上は(意識の世界
まで)出てこないでくれ」と云うわけなのです。
自由連想法は、そんな出てきて欲しくない夢の
内容を、わざわざ引っぱり出そうというのですか
ら、そう考えただけでも、大変苦痛な作業である
ことがお分かり頂けるのでないかと思います。(^-^;
さて、そんな苦痛話も踏まえて^^;、
この自由連想法で重要になる現象として、
抵抗や転移と云うものがあります。
この抵抗や転移が、無意識を表面化させること
を困難にする要因となるわけですが、同時に、
無意識の中身や状態を知る手掛かりになったり、
治療を助けてくれる要素になったりもします。
抵抗とは文字通り、反発する気持ち、逆らう行動
ですが、治療中にもしばしば起こる現象です。
治療の途中で、患者が押し黙って何も言葉を発
しなくなったり、「こんな治療に何の意味がある
のだ」と怒りだしたり・・・
しかしフロイドは、黙ることや怒りだすことに
も「何かしらの意味(メッセージ)がある」とし
て、これを重要視しました。
つまり、これも後述しますが無意識は「表に出し
たくない心の中身」ですから、当然それを守ろう
と抵抗が起こるわけで、抵抗が強まれば強まるほ
ど「そこに何かがある」と知らせているようなも
の、なのです。
そしてもう一つの転移ですが、
これは幼少期に戻った患者の心が、治療者に対し
てその感情をぶつけてくる現象・・・
たとえば、患者が幼少期に「父親に愛して欲し
かった」と強く思っていたとします。すると患者
は治療者を父親と姿をダブらせて、治療者を信頼
し愛するようになります。つまり、欲しかった愛
を治療者に求めるようになるわけですね。
もちろん、本当に愛情が向かうべき先は治療者で
はなく父親(か、それに代わる人)なのですが、
治療においては治療者がその代理となり、(言葉は
悪いですが)そうした転移を利用しながら、無意識
にある愛憎や不安を取り除いて行きます。そして
患者が帰るべき環境(愛する父親や家族の元)へ
戻してあげるわけです。
フロイドは、こうした自由連想法を一人の患者に
対して、毎日か、一日おきに行ったと云われてい
ます。
患者によっては、それが一年、二年と続くわけ
ですから大変な治療ですよね。
そしてもっと大変なのは、患者の治療費の負担で
ありまして^^;、なかには家が一、二軒は建ちそ
うなほど掛かったそうです。
ですので当時は、患者のほとんどはお金持ちの人
たちだったそうです。
そして精神分析(自由連想法)の現在ですが、彼
と同じ技法を用いる医師や、精神分析家は、極少
数と云われています。
それは費用の面もそうですが、時間が掛かり過ぎ
るという、時代のニーズにも合わなくなったので
しょうね。
しかしもちろん、理由はそれだけではなく、フロ
イド以降の研究によって、無意識を導き出す方法
が数多く生み出されてきた、という理由のほうが
大きいと思います。
たとえば、今日あるカウンセリングなども、技法
の様式は変わっても、クライアントさんに言葉を
促しながら、無意識にあるものを癒していく、と
いう目的は同じです。
つまり、姿や形は違っても、フロイドの考え方や、
治療法の原型は、現在も私たちの周囲に数多く
根付いている、と云えるわけです。
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