私は神経症についてを、森田療法(以下、森田)を中心に考えてきました。
しかし、森田だけでは「どうにもならない」症状に出会うことが多く、自然に取り入れていたのが、精神分析学の考え方でした。
森田には「過去は不問。いまやるべきことをやる」という大原則があります。
つまり、過去をくよくよ考えても仕方がない。それより『いま、ここ』を大切にしよう、という約束です。
自分の行動を意識的に変えることで、悪い連鎖を断つ。
簡単に云えば、そういう考え方ですね。
私も、それには賛成で、そのほうが前向きだし、神経症には大切なことだと思います。
しかしカウンセリングという(クライアントさんの話を とことん聴く)教育を受けてきた中で、
「本当に『過去は不問』でいいのだろうか?」という疑問も、いつも頭の中にありました。
実際、クライアントさんたちも
「朝起きたら、ちゃんと顔を洗いなさい。そしてやるべきことをやりなさい。そのほうが前向きだし、気持ちがいい」の理屈は分かっても、
「それすらできない」もどかしさや、やりたくてもできない自責の辛さがつきまとい、そのことでカウンセリングが中断してしまうことも、しばしばありました。
そして私自身も、それまでいくつかの神経症(ヒステリー麻痺、不安神経症、パニック障害、拒食症など)を体験していましたので、「森田だけではどうにもならない。やはり過去も重要である」という結論に至るには、それほどの時間はかかりませんでした。
さて、精神分析学については、これから先の章でさらに詳しく説明させて頂きますが、
森田が「いま」を重んじる意識面の療法とするなら、
精神分析は、その人の「過去」を重要視する無意識面の療法という位置づけになります。
そして何故、その両方が大切であるかを、少し書かせて頂きプロローグとさせて頂きます。
クライアントさんは「どうして、いつもこうなってしまうのか? 自分の何が悪いのか?」と、常に自問しているわけです。
そんなときに「それはあなたの幼弱(幼稚)な性格が原因です。だから、ぐすぐす云わず大人になるよう努力しましょう」と、取り付く島もなく云われたら、 たとえそれが正論であったとしても、何か釈然としないし、自責に塩を塗り込まれたようで、悲しい気分になるだけですよね。
ならば、その幼弱な性格の原点は何処にあるのか? どうしてその部分だけ成長できずにいるのか?
そして、どうすれば解決できるのか?、、、も、一緒に考えて行けたら、もっと前向きになれるのではないでしょうか。
つまり、「朝はちゃんと顔を洗って、その日できることから始めましょう」という森田と、
「でもどうして、それができないのかの理由も、一緒に考えてみましょうね」という精神分析の双方があれば、少なくとも得体の知れないバケモノに立ち向かうような不安や、それまで自分に貼っていた『ダメな人間』というレッテルと向き合う必要もなく、もっと前向きな気持ちでの「頑張ろう」になれると思うのです。
精神分析(自由連想法)を産み出したフロイドは、様々な研究や治療経験から、人間には自分では意識できない無意識という心の領域(部屋)があって、神経症の原因も、その人の過去、とくに乳幼児期の無意識に関わるような体験にあるとしています。
つまり、その人の過去にできた『固着』(癒されずに残っている心の傷のようなもの)に着目し、その終れない過去(未決着な過去)こそが神経症の原因である、という学説を立てたわけです。
もちろん、自分自身でも意識できない領域で起こっている事ですから、むやみに触れることは出来ませんが、私もクライアントさんの話を聴き進めていくと、必ず決まったように、「あのとき・・・」というような、過去の話に辿り着きます。
無意識の中にあるものは、そう簡単に、、いや、ほとんどストレートには出て来ないものですが、
しかしその話の内容は、単なる愚痴や言い訳として片付けられないというのが正直な印象です。
当たり前のことですが、人間には10年間生きていれば10年の過去が、40年間生きていれば40年の過去がありますからね。
そう、、、良い事もあれば、悪い事もいろいろあったであろう、過去です。
そして、そうした過去があって、いまの自分があるわけですから、その過去も、いまある症状にとっては重要な手掛かりになる、という考え方は間違っていないはずですし、過去を振り返ることは決して後ろ向きや消極的な事ではないはずです。
「いま、やるべきことをやる」という(意識的な)森田と、
「ちょっと過去(無意識)を振り返ってみましょう」というフロイドの考え方の、
両方が大事、、、と云うことを、何となくでもご理解頂けましたでしょうか。
現在(意識的なもの)と、過去(無意識的なもの)の、その両方があって心なのですから、その両方を大事にするのは当然のことであり、神経症の改善も、
森田とフロイドの両方を取り入れることで、より完成に近づくことが出来るのではないか、と思います。
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