僕を立ち直らせた一言

僕の精神科の通院は6年続きました。
いま思うと、初めの3年間は
「とにかく症状を治したい」
と、懸命の月2回でした。 

発症以前から森田療法を知っていましたし、発症後も
実践しましたが、やはり症状に対する「とらわれ」は
ありました。 いや、正直に云うとそれしかアタマに
ありませんでした。

つまり、いくら森田を勉強していても、森田博士の云
いたいことを理解できていなかったわけですね。

森田では『症状に意識が向いている間は完治(陶冶)
は迎えられない』と云います。

いまならその意味も解るのですが、やはり・・・。


そんな「とらわれ」が吹っ切れたのは、皮肉にも
「正直、神経症は苦手だよ。森田もよく知らんしね」
と公言する主治医(精神科医)の一言でした。

僕があまりにも診察ごとに「森田、森田・・」と云う
ものだから、先生もイライラしていたのかな?(苦笑)

  
そしてそれは、ちょうど通院3年目の話です。
その日も僕は、憂鬱でした。
食べられない、食べれば膨満感でパニック・・・

一体本当に完治なんて出来るのだろうか?(-_-;)
正直、少し森田にも疑問を抱き始めていた頃です。

「先生。この病気は、ホントに治るんでしょうか?」
そう尋ねると、
彼は間髪入れず「治らない」とニコニコ答えます。
「・・・?」
僕はちょっと解らず、もう一度同じ質問。
するとまた「治らない(^-^)」と、ニコニコしなが
ら云う。

「・・・・。(-"-#)」
「実はいつ、そんな質問が出るかなぁって、実は楽し
みにしてたんだ。よっぽとこっちから云おうと思った
こともあるんだョ・・・治らないですよ、これは」

「はあぁ?」
落胆と云うより呆気でした。
「なんなの?いまさら」って云うのもありました。

しかも、どうしてそんな簡単に云ってのけるかな、
このヤブ医者は・・・(ーー;)
冷静になるにつれ、やや怒りが。(苦笑)

しかし、彼の説明が始まると、なるほど、この人は
精神科医だわ、と思い直しました(笑)。
 
彼曰く、
「これは気持ちから起こる病でしょ? 気持ちって、
虫歯や盲腸みたいに、悪くなったからって、取れない
よネ。逆に取っちまったら、困るんじゃない? 取れ
ないけど・・・(^_^;)」

その時、僕はハッとしました。

すべての意味が理解できたわけではないけれど、
「そうだ、この苦しさも、嫌だと思う気持ちも、ぜん
ぶ自分の中に在るんだ」と、

症状と自分、自分と症状がこのとき始めて「融合」
したような気がしました。

「そうだ、ぜんぶ自分なんだ」
この感覚、なんとなく判りませんか? 

何時も悩まされる症状は、腫瘍やウィルスによるもの
ではなくて、ぜんぶ気持ち(思考)の中から湧き上が
ってきているもの、なんだ、って。


それからです。気持ちが軽くなったのは。
もちろん、それからも症状は しばらく続きましたけ
ど、「ぜんぶ自分。自分の一部に症状がある」。
そう思うと、何故かそんな自分も可愛く思えるんです。

まあ、目が近視。肩が凝る。
それと同じ感じでしょうか。(^^:

これは結構、嬉しかったです。
なんだか自分のことを、認めてあげられたみたいで。

そうなると次第に症状が起きても「まあ、仕方ないか」
って、イライラしなくなりました。

いや、むしろ不安が起きても、
「ああ、疲れが溜まったみたいだネ。休もうか」
と自分に話かけられるようになったのです。 

そう、健康のバロメーター、自分の主治医みたいなも
のですね。無理をしなくなりました。

たとえ、ここ一発。無理が必要なときでも、ちょっと
した時間、症状と一服できるようになったのです。

森田から学んだこと、あのときの主治医との会話は、
僕を自由にしてくれたと思います。


何かを掴むきっかけは、人によって様々です。
それこそスポーツ新聞の芸能欄かも知れないし、
広辞苑かも知れません。

ただ云えるのは、気持ちを閉ざしたり、あきらめてい
たのでは、そのきっかけすら逃してしまうと云うこと
です。

あきらめからは、何も生まれません。
どうぞ、いろいろなモノに触れてみてください。


本を読む、誰かと話をする・・・勿論その中には、
マイナスのモノもあるでしょう。

心を刺激することで、一時的に症状が悪化したと思え
るときもあるでしょう。 

でも、何も無いよりはマイナスのほうが良い場合も
あります。

おそらく初めは怖いと思います。
僕も怖かったのでわかります。

でもあえて、怖いものは、怖いままに、少しずつでも、
何かを始めてみませんか。

そう、少しずつでも・・・ね。







・当記事は1998年に執筆者のプライベートサイト
に掲載したものです。
尚、時間経過により陳腐化した箇所のみ加筆、修正し
ました。また文章はスマートフォンで読みやすいよう
編集してある為、パソコン画面では読みづらい部分が
あるかもしれません。あらかじめご了承ください。


 
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