神経質症 ある体験記

僕の友人B子さんが、悲鳴をあげながら助けを
求めて来ました。
「部屋が片付かない」というのです。
家には何度か招かれたことがあるのですが、
彼女は塵一つ許さぬキレイ好きでした。

僕は彼女の話に「もしや」と思い、彼女の家へ
急行しました。
彼女は極度の潔癖症だったのです。

案の定、家の中は、ゴミの処分場のように足の踏み
場もない状態でした。
もう、かれこれ3ヶ月放置してあるそうです。

「私、変になっちゃった」
と苦笑いする彼女は、ゲソッと痩せ衰えていました。
子供たちはコンビニ弁当で過ごしていたそうですが、
やはりオロオロと不安定でした。

神経質症の不安が強まると、意思とは逆の方向へ
進んでしまう場合が多々あります。
「キレイにしたい」
『こうあるべき』の脅迫観念が強すぎて、少しでも
思い通りに出来ないと、出来ない自分が許せない。

そして彼女も頑張るのですが、あまりにも現実と
掛け離れた「キレイ」が彼女の理想ですから、
さらに葛藤が強まり、やがて疲れ果て・・・
いわばパニック状態を越えた放心状態ですね。

そうなると皮肉なことに
「なんとかしなければ」
の思いとは反対に、部屋は荒れ放題。

つまり、
どうにもできない・・理想が叶えられないのなら
「いっそ、何もしない」
という両極端な態度に出てしまうのです。

掃除することを放棄することで、
「どうにもできない」
ジレンマからは(とりあえず)解放されますからね。

しかしもちろん、本来が潔癖症ですから
「何も出来ない」
と云う自責の念が、さらに重く彼女にのしかかります。


多少の抑鬱状態が感じられたので、まず精神科の
受診を薦めました。

そして家の掃除は半年計画で行い、とりあえず
彼女の好きな料理が出来るように、キッチンだけ
最低限の片付けをしよう・・・と提案しました。

初めは混乱して上手く行きませんでしたが、
キッチンが使えるようになり
「せめて子供の食事だけは・・・」
の彼女の希望が叶うようになると落ち着きを取り戻し、
除々にではありますが、クスリの力を借りながら、
通常の生活に戻りつつあります。


彼女の場合、夫の実家の問題を抱えながらも、帰宅の
遅い夫とは擦れ違いの生活で話し合いも出来ず、将来
への不安を募らせてしまいました。

それでも共稼ぎの頃は、気持ちは紛らわせることが
出来たのですが、子供ができ退職して荷物が増え始め
ると育児の不安とともに、生来の完全主義(潔癖症)
が顔をのぞかせ、完璧であることを自身に強要して
しまったのです。

(この話は本人たちから許しを得て、プライバシー
保護の為3件の類似ケースを合成し掲載しました)



キチンとしたい、もっと良い人生にしたい・・・は
大切な気持ちなのですが、人間出来ることには限度が
あり、同時に物事には順序や段階があります。

元々人生とは不安定なものですが、そうしたモノを
安定的に、しかも一足飛びにクリアしてしまいたい
という誤った認識での)焦りが、神経質症の原因で
あり、症状を深めてしまう悪循環の始まりなのです。





・当記事は1998年に執筆者のプライベートサイト
に掲載したものです。
尚、時間経過により陳腐化した箇所のみ加筆、修正し
ました。また文章はスマートフォンで読みやすいよう
編集してある為、パソコン画面では読みづらい部分が
あるかもしれません。あらかじめご了承ください。


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